読者(どくしゃ)であるこどもたちが投票(とうひょう)して順位(じゅんい)を決(き)める賞(しょう)の１位(い)にえらばれたことは、本当(ほんとう)に幸(しあわ)せで名誉(めいよ)なことです。知(し)らせを受(う)けたときは、とびあがるほどうれしかったです。
「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズは、こどもだけが主人公(しゅじんこう)ではないこと、種類(しゅるい)豊富(ほうふ)なふしぎな駄菓子(だがし)の存在(そんざい)、駄菓子屋(だがしや)というふしぎな空間(くうかん)など、キャラクターやアイテムの魅力(みりょく)が大(おお)きいと思(おも)います。また、さまざまな悩(なや)みが登場(とうじょう)し、ハッピーエンドばかりではないというところも、こどもたちに気(き)に入(い)ってもらえているのでしょう。この主人公(しゅじんこう)はいったいどんな結末(けつまつ)をむかえるんだろう？　わたしだったら、こんなお菓子(かし)がほしいな。そういう気持(きも)ちになって、読(よ)んでもらえれば、作者(さくしゃ)としてはうれしいです。

ひとつひとつのエピソードをだいじに書(か)くということです。そのためには、物語(ものがたり)全体(ぜんたい)のストーリー展開(てんかい)とエピソードとのバランスを、いつも意識(いしき)しています。そして、「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズは、毎年(まいとし)、４月(がつ)と9月(がつ)に1冊(さつ)ずつ、新刊(しんかん)が出(で)ることになっています。あたりまえのことかもしれませんが、決(き)められたその時期(じき)に、読者(どくしゃ)を待(ま)たせることなく新刊(しんかん)をお届(とど)けするということもだいじですね。でも、半年(はんとし)に１冊(さつ)書(か)くというのはなかなか大変(たいへん)なので、しめきりまでのスケジュールがかなり厳(きび)しいこともあります。

画家(がか)のjyajyaさんのイラストを見(み)ているうちに「ああ、こういうレトロな路地(ろじ)や横丁(よこちょう)に、ふしぎなお店(みせ)があったらいいな。そこは駄菓子屋(だがしや)で、魔法(まほう)のようなお菓子(かし)ばかりおいている……名前(なまえ)は銭(ぜに)天堂(てんどう)。そして、髪(かみ)の白(しろ)い、体(からだ)の大(おお)きなおかみさんがいる。その人(ひと)の名前(なまえ)は……紅子(べにこ)！」というふうに、どんどんアイディアが生(う)まれていきました。紅子(べにこ)は、すべてにおいてたんたんとしていて、クールだけれど、実(じつ)は人情味(にんじょうみ)もあるところが好(す)きです。担当(たんとう)編集者(へんしゅうしゃ)さんはハードボイルドの小説(しょうせつ)に出(で)てくるようだと言(い)ってくださっています。

よどみは、「紅子(べにこ)のライバルを登場(とうじょう)させましょう」という、担当(たんとう)編集者(へんしゅうしゃ)さんからのアドバイスから生(う)まれました。紅子(べにこ)に対(たい)して敵意(てきい)をむきだしにしてくるところや、邪悪(じゃあく)なところに書(か)くのは楽(たの)しかったです。そのよどみとの決着(けっちゃく)がついたので、今度(こんど)は六条(ろくじょう)教授(きょうじゅ)を出(だ)すことにしました。こちらは正真(しょうしん)正銘(しょうめい)の人間(にんげん)で、よどみとはちがう危険性(きけんせい)を秘(ひ)めているキャラクターにしたいと思(おも)いました。そのちがいも、楽(たの)しんでもらいたいと思(おも)います。健太(けんた)は、「銭(ぜに)天堂(てんどう)にたどりついたのに、いっこうに駄菓子(だがし)をほしがらないお客(きゃく)さんがいたとしたら？」というアイデアから生(う)まれました。

お気(き)に入(い)りは、「釣(つ)り鯛焼(たいや)き」と「守(まも)らニャイト」。どちらも「もし本当(ほんとう)にこの世(よ)に存在(そんざい)するなら、ぜひとも、ほしい！」と思(おも)う駄菓子(だがし)です。

釣(つ)り鯛焼(たいや)き

エピソードとしては、「虹色(にじいろ)水(みず)あめ」や「底(そこ)なしイ～カ」を気(き)に入(い)っています。

虹色(にじいろ)水(みず)あめ

「虹色(にじいろ)水(みず)あめ」は色(いろ)が変(か)わっていくシーンを書(か)くことが楽(たの)しかったし、「底(そこ)なしイ～カ」では”胃袋(いぶくろ)にどんよくなイカがすみ着(つ)く”というアイデアが、自分(じぶん)でも「おもしろい！」と思(おも)っているので。

編集者(へんしゅうしゃ)さんとの打(う)ち合(あ)わせでお話(はなし)の展開(てんかい)を決(き)めたあと、どんな駄菓子(だがし)がいいかを考(かんが)えます。駄菓子(だがし)の決(き)め方(かた)は、2つ。「ほしい能力(のうりょく)」にお菓子(かし)をあてはめるか、あるいは、お菓子(かし)の名前(なまえ)から能力(のうりょく)を連想(れんそう)するか……です。たとえば「孤独(こどく)になれるお菓子(かし)」を作(つく)りたいときは、「アローン（孤独(こどく)）」という言葉(ことば)から、音(おと)が似(に)ている「マロン」をあわせて「アローンマロン」に。お菓子(かし)の名前(なまえ)から連想(れんそう)するときは、「いそべもち」は「いそげもち」と言(い)いかえられるな、だったら「食(た)べればせっかちになれるもち」というのはどうだろう？というふうに考(かんが)えます。

「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズを読(よ)んで、苦手(にがて)だった読書(どくしょ)が好(す)きになったというお手紙(てがみ)をいただくことが、たびたびあります。これは作家(さっか)にとって最高(さいこう)のほめ言葉(ことば)です。そして、こどもといっしょに読(よ)んで、「どんなお菓子(かし)がほしいか、親子(おやこ)でわくわくしながら話(はな)し合(あ)います」というおうちの方(ほう)からのお手紙(てがみ)も、このシリーズが家族(かぞく)のコミュニケーションにも役立(やくだ)っていると感(かん)じられて、本当(ほんとう)に心(こころ)にのこるものでした。

紅子(べにこ)や猫(ねこ)の墨(すみ)丸(まる)が動(うご)いていることに、まずとても感動(かんどう)しました。そして、銭(ぜに)天堂(てんどう)の店内(てんない)に、わたしの考(かんが)えたお菓子(かし)が色(いろ)あざやかにあふれていることも……。それは、まさに、わたしが心(こころ)に思(おも)い描(えが)いていた銭(ぜに)天堂(てんどう)そのものだったからです。招(まね)き猫(ねこ)たちも本当(ほんとう)にかわいらしくて、わいわいしゃべったりするシーンには思(おも)わずにっこりしてしまいました。

ダークなエピソードも、みなさんが楽(たの)しんで読(よ)んでくれる理由(りゆう)のひとつだとは思(おも)いますが、「こわい」というのは「暴力的(ぼうりょくてき)」であることとはちがうと思(おも)うので、まちがえないように気(き)をつけています。それと、ときに「にくしみ」や「怒(いか)り」をどくどくしく描(えが)きすぎてしまうこともあるので、そういうときは、編集者(へんしゅうしゃ)さんに食(く)いとめていただいています。